北朝鮮製モランボン腕時計:70~80年代の北朝鮮技術、微妙なデザインの違い、機能の詳細な表記、George von Burg 社製ES95ムーブメント、平壌に工場? (2016年12月4日)

    北朝鮮製のモランボン腕時計、しかも3種の写真撮影をする機会に恵まれた。この腕時計の存在は知っていたが、手にとって写真を撮れるとは思わなかったので、なかなか感動した。以下、紹介していく。

    モランボン時計1(動いている)
    PC040671.jpg

    モランボン時計1は、日付がないタイプである。ネットで出回っている写真を見る限りでは、この日付がないタイプはあまり出てこないので、レアなのだと思う。以下、細かい部分を見ていく。

    まず、「モランボン」というフォントは、ゴシック体風の比較的細いものが使われている。
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    30分上の辺りには、「朝鮮平壌」と同じフォントでマークされている。
    PC040673.jpg

    さらに、30分下付近の円周に「MADE IN D.P.R.K」とある。
    PC040674.jpg

    リューズには、何か刻まれているが、相当摩耗しており、読み取れない。もしかすると、単なる傷なのかもしれない。PかDという文字のようにも見えるのだが。長年にわたり、どこの誰がこのリューズを巻いていたのだろうかと想いをはせてしまう。
    PC040675.jpg

    モランボン時計1の裏面。形状からはスクリュー式の裏蓋になっている。中が見たい。
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    中心部には「モランボン(牡丹峰)」と刻まれている。「モランボン」がこの時計のブランドなのだろう。
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    この時計の一番シブイところが、裏面円周に刻まれている次の3つの特徴。「防打(打「타」は、北朝鮮フォントが使われている)、防湿、非磁性体」。「この時計は丈夫ですよ」と言わんばかりのこの表記は、実に北朝鮮らしい。この時計が作られた当時の一般的な技術水準は分からないが、こうしたことが「標準装備」ではなかったとすると、なかなかのテクノロジーを有していたということになる。特に「防打」というのが素晴らしいが、モランボン時計がG-SHOCKの原型なのかもしれない。人民軍人も使っていたのだろうか。
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    そして、裏面にも「朝鮮 平壌」とある。
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    この時計には、伸縮する金属ベルトが付いているが、これが北朝鮮製かどうかは不明である。

    モランボン時計2。(動いている)この時計には、日付窓がある。
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    モランボン時計2は、検索すると写真がたくさん出てくるので、最も一般的なモランボン時計なのだと思う。モランボン時計1との違いは、上記の日付窓がある以外に、文字盤上の表記が異なる。

    このように自体がゴシック風から手書き風に変更され、その下に英文字で「MORANBONG」と書かれている。
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    興味深いのは、これと同じタイプのモランボン時計3(不動)を見ると、この英文字表記が少し違っている。「MORAN-BONG」というように、語彙間(牡丹と峰の間)にハイフォンが入れられている。恐らく、製造年代の違いにより、英文字での「表記法」の検討がなされたのであろう。また、フォントが全体的に太く、特に「峰」を表す「봉」のフォントもよく見ると少し異なっている。
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    下は、モランボン時計2の30分上にある表記である。モランボン時計1では、朝鮮文字のみの表記であったが、モランボン時計2では、「朝鮮・平壌」というように「朝鮮」と「平壌」の間に「・」が入れられ、さらに英文字で「PYONGYANG・KOREA」と書かれている。
    PC040682.jpg

    こちらは、モランボン時計3の同じ部分であるが、「G」のように若干フォントが変わっているようにも見えるが、大きな変更はない。
    PC040691.jpg

    その代わりに30分下に書かれていた「MADE IN D.P.R.K」はなくなっている。
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    モランボン時計2のリューズはこんな感じで、こちらも何か刻まれているように見えるが、摩耗でよく分からない。
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    裏面については変更がないが、おもしろいのは、スクリュー蓋オープナーを引っかける切り込みの位置である。文字を打刻する位置といった方が良いのかもしれないが、モランボン時計1と異なっている。これが仕様変更に伴うものなのか、時計工場で手作業をしている時に発生したものかは分からないが、感じとしては後者だと思う。裏蓋の直径は、モランボン時計1、2共に同じであるが、プラスチック風防はモランボン時計1が29ミリ、モランボン時計2が31.5ミリなので、日付表示追加に伴い、ケースは変更されているようだ。

    モランボン時計1では、「平壌」の「壌」の下に切り込みがあるが、モランボン時計2では「朝鮮」と「平壌」の間に切り込みが来ている。手作業から来るこの種の不統一は、以前、韓国のトラ展望台の土産物屋に置かれていた北朝鮮製の飲料(酒だったかも?)で確認している。韓国人店員が、「同じ商品なのに、入っている量が違うだろ」と笑っていた。「27号探索隊員」としては、「80年代、バケツの水で冷やしながら売っていた、南朝鮮のプラスチック容器に入ったマッコリもそうだったよ」と言いかけたが、さすがに「傀儡軍哨所」の直ぐ横で言うのは控えておいた。
    PC040687.jpg

    それにしても、このモランボン時計2、どれほど使い込んだのか線や文字が摩耗している。この時計、「苦難の行軍」時期は、どこで過ごしていたのだろうか。
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    上でも紹介してきたモランボン時計3。これは不動品あるが、文字盤の状態は一番良い。
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    裏蓋には文字がない。仕様変更による可能性も多少はあるが、恐らく修理の過程で社外品に付け替えられたのであろう。形的には、ローレックスに使われている切り込みがないスクリュー式に見える。
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    さて、中身であるが、こんな写真があった。ムーブメントにも「モランボン,朝鮮 平壌」と刻まれており、「17石」と貴石の数が書かれている。
    dprk movement characters
    Source: watchuseek watch forums, http://forums.watchuseek.com/f72/moranbong-north-korea-watch-371962.html

    上の写真を見つけた、腕時計コレクターが集うこのフォーラム、なかなか興味深い。朝鮮文字の解釈は今一つだが、コレクターだけあって、ムーブメントの分析力は凄い。色々と議論がなされているが、どうやらムーブメントはスイスのGeorge von Burg社 (CLAROとも呼ぶらしい。企業合併の結果のようだが)社製のES95というタイプと同一ということである。下は、ES95 (Sonceboz (SEMAG) ES95)の写真であるが、刻印が異なる以外は、同じように見える。

    写真では、ムーブメントが逆さに置かれている。
    Sonceboz_ES_95-fit-350x358.jpg
    Source: Welcome to 17jewels.info, http://17jewels.info/movements-en/movements-s-en/movements-s-sonceboz-en/1142-sonceboz-es-95.html

    問題は、このムーブメントをスイスから輸入、それに刻印をしてこの時計に使っていたのかということであるが、どうやら、ES95という汎用ムーブメントは、香港でもライセンス生産されていたようで、北朝鮮は、距離的に近い香港(当時は英領)から仕入れていた可能性はある。もちろん、北朝鮮がGeorge von Burgから技術指導を受けるか、独自のリバースエンジニアリングで技術を獲得し、北朝鮮の工場でムーブメントをゼロから生産していた可能性もある。

    フォーラムを読んでいると、「1980年代の英文で書かれた北朝鮮の本の中にモランボン時計の工場の写真があった」という記述があるが、肝心の写真が削除されてしまったのか出ていない。恐らく、「1980年代の北朝鮮の本」というのは、『今日の朝鮮』(書名は曖昧。職場に保管してあるので、後日確認する)という、北朝鮮が配っていた宣伝書籍の英語版だと思う。私も70年代に「朝鮮中央放送」から贈呈されているので、もしかすると、その中に時計工場の写真が出ているのかもしれない。上記の通り、職場に保管してあるので、後日、確認してみる。

    北朝鮮の技術が詰め込まれた、北朝鮮の歴史と共に時を刻んできた腕時計は、とても魅力的だ。

    どこかの自動車会社のコピーのようだが、まさにTimeless Value。

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    川口智彦

    Author:川口智彦
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    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「副部長同志」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)
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    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.

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