「20時報道」:ニカラグア新大統領就任式に向かう崔龍海「金正恩国務委員長」の特使、閲兵も、<追記>中国・台湾との関係、トランプとの関係、三池淵楽団のディズニーメドレー (2017年1月6日 「朝鮮中央TV」)
<追記>
「国対国なら、金永南が行くのではないか?」というコメントを頂いた。この点については、私も記事を書きながら随分考えた。まず、高齢の金永南の体調不良が頭に浮かび、最近の行事に彼が出てきているか調べたところ、「元帥様」の「新年の辞」を受けて行われた「平壌市群衆大会」にしっかりと出席していた。ということで、彼は元気ということになる。
それと関連し、「特使」について調べてみると、金永南は外国をしばしば訪問するものの、「朝鮮中央通信」で「特使」をキーワードに検索した結果では一度もヒットしない。検索は2014年夏ぐらいまで遡っているが、「特使」として出てくるのは、モスクワを訪問した崔龍海だけである。その前で記憶に残るのは、2013年5月のこれまた崔龍海による中国訪問、そして、2012年8月の張成沢の中国訪問だけである。
崔龍海の訪露では、「朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員会委員」が肩書きのトップになっている。また、崔龍海は、2016年12月上旬、フィデロ・カストロの葬儀にも出席しているが、この時は「特使」ではなく「国家代表団団長」であり、肩書きも「労働党常務委員会委員長」であった。キューバの場合、党対党の友好関係があるので、形式的には「国家代表」としながらも、党の代表も兼ねた形となっているのだと思う。
さらに分からないのが、反帝の盟友だとしても、失礼ながら、たかがニカラグアに「元帥様」の「特使」など送る必要があるのだろうかという疑問である。ニカラグアに関する日本外務省のデータを見ても、輸出品目のほとんどは砂糖や葉タバコなど、農産品ばかりで、北朝鮮にとって死活的な品目ではない。砂糖は北朝鮮国内に原料が存在しないので欲しいだろうが、ニカラグアからわざわざ輸入する必要もないだろうし、砂糖ならば中国からいくらでも輸入できる(安保理制裁の対象となっていないのだし)。また、過去記事でも紹介したように、北朝鮮では、コーンスターチ生産が拡大し、広く使われていることを紹介するテレビ番組もあった。
そうすると、なぜニカラグアに「特使」をとなってしまうのだが、この点に関しては、韓国の報道にも分析が見当たらない。
あるとすれば、ニカラグア新大統領の就任式に集まってくる、反帝の盟友達と会って、「元帥様」のメッセージを伝達するということぐらいであろうか。
ニカラグア新大統領就任式は、10日(現地時間)に予定されており、崔龍海一行は、移動に時間を要するにしても、随分余裕を持って出発した。高麗航空機で平壌を発ったが、北京で他社の旅客機に乗り換えていくのか、それとも高麗航空機の特別便で直行するのかは分からない(給油のためにどこかに着陸するのかもしれないが)。
さらに興味深いのは、ニカラグアは台湾と外交関係があるという点である。台湾メディアの報道では、台湾総統も米国経由で、ニカラグア新大統領の就任式に出席するとなっている。というのも、中国とニカラグアは外交関係がないからであるが、そこに「元帥様」の「特使」が出向くというのも実に意味ありげである。しかも、台湾総統がトランプと電話で話し、米国でトランプ関係者と会うかもしれないと言われている微妙な時期にである。
Taiwan News, President Tsai’s Nicaragua itinerary raises questions Presidential Office downplays U.S. stopovers, http://www.taiwannews.com.tw/en/news/3063394
北朝鮮が中国との関係を悪化させる必要は表面的にはないように見えるが、中国が安保理の最新制裁決議に賛成し、もし、本当に実質的な石炭輸入制限を行っているのであれば(別記事に書いた、米国務省定例記者会見関連の記事とは矛盾してしまうが)、その反発で台湾と接近することはありえるし、そうした行動は、かつて中韓国交樹立で中朝関係が悪化した際にもしている。
さらに、トランプと台湾の関係を組み合わせてみると、北朝鮮は台湾との関係強化をカードに中国を牽制しながら(これは、北朝鮮にとってはある種の掛けではあるが)、台湾を通じて米国にメッセージを送ろうとしているのかもしれない。今回の「特使」派遣は、実はオルテガも反帝の盟友達も本質的にはどうでもよく、あるいは煙幕で、実はこうしたことを狙っての派遣ではないのかと思えてきた。
もし、台湾カードを使って中国を牽制し、台湾を使ってトランプ(米国ではなくトランプ個人)との接近を企てるような、最近あまり聞かなくなった「瀬戸際外交」を「元帥様」ができるようになったのであれば、「最高領導者同志」になり、一歩、お父さんに近づいたということになろう。
ICBMで脅しつつ、「三池淵楽団」にディズニーメドレーも演奏させたのも、トランプへのメッセージだったのかもしれない。何を考えているのだかよく分からないトランプだからこそ、こうした相反する2つのメッセージを発したのであろう。
あながち、崔龍海訪米も冗談ではないのかもしれない。
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6日、「朝鮮中央TV」の「20時報道」の中で報道された、崔龍海がニカラグア新大統領就任式に出席するために平壌空港を発つ様子を紹介する場面。
昨日書いた「最高領導者同志」とも関連し、崔龍海は「金正恩国務委員会委員長の特使」と紹介されている。「朝鮮労働党委員長」ではなく、「国務委員長の特使」とされているのは、ニカラグアとの関係が党と党との関係ではなく、国家と国家の関係、つまり政府間の関係だからなのだろうか。この点、これまでの「特使」派遣がどのように報道されていたのか、特に中露への派遣がどうだったのかについて確認してみる必要がある。
これまでもあったのか記憶は曖昧だが、空港には各軍の「義兵隊」が来ており、崔龍海は頭を下げながら閲兵した。この辺り、「元帥様」の閲兵と明確な差を付けてあるが、「特使」なので「義兵隊」が出てきたということであろうか。
「反帝」の盟友、オルテガの就任式に向かう崔龍海。日本語字幕付き。
Source: KCTV, 2017/01/06
わざわざ太平洋を渡るのだから、トランプの就任式にもついでにオブザーバーとして行ってはどうだろうか。
「国対国なら、金永南が行くのではないか?」というコメントを頂いた。この点については、私も記事を書きながら随分考えた。まず、高齢の金永南の体調不良が頭に浮かび、最近の行事に彼が出てきているか調べたところ、「元帥様」の「新年の辞」を受けて行われた「平壌市群衆大会」にしっかりと出席していた。ということで、彼は元気ということになる。
それと関連し、「特使」について調べてみると、金永南は外国をしばしば訪問するものの、「朝鮮中央通信」で「特使」をキーワードに検索した結果では一度もヒットしない。検索は2014年夏ぐらいまで遡っているが、「特使」として出てくるのは、モスクワを訪問した崔龍海だけである。その前で記憶に残るのは、2013年5月のこれまた崔龍海による中国訪問、そして、2012年8月の張成沢の中国訪問だけである。
崔龍海の訪露では、「朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員会委員」が肩書きのトップになっている。また、崔龍海は、2016年12月上旬、フィデロ・カストロの葬儀にも出席しているが、この時は「特使」ではなく「国家代表団団長」であり、肩書きも「労働党常務委員会委員長」であった。キューバの場合、党対党の友好関係があるので、形式的には「国家代表」としながらも、党の代表も兼ねた形となっているのだと思う。
さらに分からないのが、反帝の盟友だとしても、失礼ながら、たかがニカラグアに「元帥様」の「特使」など送る必要があるのだろうかという疑問である。ニカラグアに関する日本外務省のデータを見ても、輸出品目のほとんどは砂糖や葉タバコなど、農産品ばかりで、北朝鮮にとって死活的な品目ではない。砂糖は北朝鮮国内に原料が存在しないので欲しいだろうが、ニカラグアからわざわざ輸入する必要もないだろうし、砂糖ならば中国からいくらでも輸入できる(安保理制裁の対象となっていないのだし)。また、過去記事でも紹介したように、北朝鮮では、コーンスターチ生産が拡大し、広く使われていることを紹介するテレビ番組もあった。
そうすると、なぜニカラグアに「特使」をとなってしまうのだが、この点に関しては、韓国の報道にも分析が見当たらない。
あるとすれば、ニカラグア新大統領の就任式に集まってくる、反帝の盟友達と会って、「元帥様」のメッセージを伝達するということぐらいであろうか。
ニカラグア新大統領就任式は、10日(現地時間)に予定されており、崔龍海一行は、移動に時間を要するにしても、随分余裕を持って出発した。高麗航空機で平壌を発ったが、北京で他社の旅客機に乗り換えていくのか、それとも高麗航空機の特別便で直行するのかは分からない(給油のためにどこかに着陸するのかもしれないが)。
さらに興味深いのは、ニカラグアは台湾と外交関係があるという点である。台湾メディアの報道では、台湾総統も米国経由で、ニカラグア新大統領の就任式に出席するとなっている。というのも、中国とニカラグアは外交関係がないからであるが、そこに「元帥様」の「特使」が出向くというのも実に意味ありげである。しかも、台湾総統がトランプと電話で話し、米国でトランプ関係者と会うかもしれないと言われている微妙な時期にである。
Taiwan News, President Tsai’s Nicaragua itinerary raises questions Presidential Office downplays U.S. stopovers, http://www.taiwannews.com.tw/en/news/3063394
北朝鮮が中国との関係を悪化させる必要は表面的にはないように見えるが、中国が安保理の最新制裁決議に賛成し、もし、本当に実質的な石炭輸入制限を行っているのであれば(別記事に書いた、米国務省定例記者会見関連の記事とは矛盾してしまうが)、その反発で台湾と接近することはありえるし、そうした行動は、かつて中韓国交樹立で中朝関係が悪化した際にもしている。
さらに、トランプと台湾の関係を組み合わせてみると、北朝鮮は台湾との関係強化をカードに中国を牽制しながら(これは、北朝鮮にとってはある種の掛けではあるが)、台湾を通じて米国にメッセージを送ろうとしているのかもしれない。今回の「特使」派遣は、実はオルテガも反帝の盟友達も本質的にはどうでもよく、あるいは煙幕で、実はこうしたことを狙っての派遣ではないのかと思えてきた。
もし、台湾カードを使って中国を牽制し、台湾を使ってトランプ(米国ではなくトランプ個人)との接近を企てるような、最近あまり聞かなくなった「瀬戸際外交」を「元帥様」ができるようになったのであれば、「最高領導者同志」になり、一歩、お父さんに近づいたということになろう。
ICBMで脅しつつ、「三池淵楽団」にディズニーメドレーも演奏させたのも、トランプへのメッセージだったのかもしれない。何を考えているのだかよく分からないトランプだからこそ、こうした相反する2つのメッセージを発したのであろう。
あながち、崔龍海訪米も冗談ではないのかもしれない。
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6日、「朝鮮中央TV」の「20時報道」の中で報道された、崔龍海がニカラグア新大統領就任式に出席するために平壌空港を発つ様子を紹介する場面。
昨日書いた「最高領導者同志」とも関連し、崔龍海は「金正恩国務委員会委員長の特使」と紹介されている。「朝鮮労働党委員長」ではなく、「国務委員長の特使」とされているのは、ニカラグアとの関係が党と党との関係ではなく、国家と国家の関係、つまり政府間の関係だからなのだろうか。この点、これまでの「特使」派遣がどのように報道されていたのか、特に中露への派遣がどうだったのかについて確認してみる必要がある。
これまでもあったのか記憶は曖昧だが、空港には各軍の「義兵隊」が来ており、崔龍海は頭を下げながら閲兵した。この辺り、「元帥様」の閲兵と明確な差を付けてあるが、「特使」なので「義兵隊」が出てきたということであろうか。
「反帝」の盟友、オルテガの就任式に向かう崔龍海。日本語字幕付き。
Source: KCTV, 2017/01/06
わざわざ太平洋を渡るのだから、トランプの就任式にもついでにオブザーバーとして行ってはどうだろうか。