北朝鮮のミサイルが東京に着弾する時間をシミュレーション:「火星-12」の軌道等を分析した研究者に質問 (2017年5月25日)

    過去記事に少し書いたが、北朝鮮が発射した「火星-12」に関する分析記事が38 Northに掲載された。

    Ralph Savelsberg, A Quick Technical Analysis of the Hwasong-12, 38 North, 38 North, http://38north.org/2017/05/hwasong051917/print/

    Ralph Savelsberg氏は、 オランダ国防大学(Netherlands Defense Academy)のミサイル研究の専門家である。

    著書は、「火星-12は、既存の火星-10(あるいはムスダン)を単に大型化したもので、類似したエンジンが使われており、ミサイルが軽量化されており、若干の航続距離延長が伸びたものの、移動性には限界がある」としている。

    また、「火星-12」に使われた主エンジンは、「(ソ連のSLBMに使われた)R-27と基本的に同じで、2つの補助エンジン(verniers)が取り付けられており、推進力を若干増大させている」と説明している。

    しかし、このエンジンに使われているのは「液体燃料で、N204酸化剤と毒性の強いUDMHを混合している」ので、「TELで搬送し、専用の発射台に直立させた後で、燃料を注入する必要があるので、発射準備に要する時間は大幅に長くなる」としている。そして、その理由として「使用と保管を安全に行うためには、N204酸化剤の温度管理に留意しなければならないから」としている。

    こうしたこともあり、「火星-12」は、日が明ける前に時間を掛けて燃料を注入し、日の出と同時に打ち上げたのであろう。

    興味深いことは、燃料のUDMHの毒性である。実際、2015年にロシアがプロトンM・ロケット打ち上げに失敗したときは、UDMHが拡散し地上を汚染したという報道もある。北朝鮮も「火星-12」の発射成功に至る前に、数回、ミサイルの発射に失敗している。もし、失敗したミサイルが「火星-12」型であるとすれば、プロトンMのようにUDMHを拡散させた可能性がある。特に、朝露国境付近で爆発(自爆?)したミサイルについては、それなりの高度に達していたので(残量は減っていたにしても)、拡散範囲が広がり、ロシアにまで達している可能性はある。

    著者は、以上のような点から、飛行コースのシミュレーションをするために指標を次のように設定している。

    質量流量 (mass flow):112 kg/s
    燃焼時間 (burn time):187 秒
    有効推進薬質量比(useful propellant fraction): 98%
    総燃料 (total propellant mass): 21371 kg
    有効燃料 (useful propellant mass): 20944kg
    載貨重量比 (dead-weight fraction): 7%
    ブースター乾燥重量 (booster dry mass): 1609 kg
    ブースターの燃料が燃え切ったときの重量 (booster burnout mass): 2036 kg
    弾頭部重量 (RV mass): 150 kg
    発射時の重量 (take-off mass): 23130 kg
    比推力 (海抜) (lsp Sea level): 270 秒
    比推力 (真空) (lsp vacumn): 302 秒
    (作成:Ralph Savelsberg)

    以上のような諸元になるが、私には、何となく分かるものと、全く分からないものがある。また、日本語訳も専門語用としては不適切なものが含まれているかもしれない。

    筆者は、これに650 kgのペイロード(筆者によると「耐熱シールドを含むR-27のペイロードと同等のものだが、北朝鮮の核弾頭よりは多少軽いと思われる」)を装着して発射した場合、「3700 km飛行し、北朝鮮が充分な制御技術を持っていれば、グアムに到達し、これは航続距離3400 kmとされるムスダンでは不可能である」と結論づけている。

    筆者は、上記の諸元を適用した航続距離、到達高度、時間を記したグラフを、実際の「火星-12」の軌道(距離700 km、高度2000km)と、最高航続距離を得られる軌道(距離3700 km、高度850km)を描いている。

    私は、過去記事で、東京までのミサイル到達時間について書こうとしたが、見つけることができたのは、複雑な計算式だけだった。そんなこともあり、これら2つのグラフはとても印象的だった(グラフについては、上記38 Northを参照のこと。38 Northより転載許可を得ていないため)。

    そこで、筆者のSavelsberg氏に東京までの到達時間に関する質問を出してみたところ、直ぐにグラフ付きの返事を頂けた。Savelsberg氏は、「東京まで到達するミサイルの種類はたくさんあり、必ずしも火星-12である必要はない」とした上で、仮に「火星-12」で攻撃したらというシミュレーショングラフを作成して下さった。縦軸が高度、横軸が飛行距離、グラフ上にはそれぞれの地点に達する時間(分)が記されている。

    Tokyo_lofted.jpg
    (作成:Ralph Savelsberg)

    シミュレーションの条件は、650 kgのペイロードを装着し、今回の実験発射を模してロフテッド(高度角)軌道で発射したことを想定しているので、発射から東京着弾までは24~25分かかっている。しかし、真上(90度)に向けて発射し、急激にミサイルを水平方向に倒していくことにミサイルが耐えられるならという条件付きながら、低軌道(depressed flightpath)で発射した場合、東京には8分程度で到達するとしている。

    こうしたことからすると、北朝鮮がミサイルを発射し、東京に落ちるまでの猶予は、10分~20分しかないということになるのではないだろうか。日本当局が、米軍、韓国軍、自衛隊いずれかのソースから北朝鮮のミサイル発射を通報され、即時Jアラートなどで警報を出すまでに5分かかるとし(恐らく、それ以上かかると思うが)、それを国民が5分以内に知り(恐らく、それ以上かかるが)、10分以内に東京の高層ビルから地下壕に退避することなど、SFの世界でも不可能ではないのだろうか。もちろん、ミサイル防御システムで何発かは打ち落とせるかも知れないが、「多発的・多種的」発射には到底対応不可であろう。

    繰り返し書いてきたが、「国民の生命財産を」本気で「守る」つもりなら、戦争が起きないような国際関係を構築する努力、米国の単独行動を許さないような努力をすることが、日本政府の仕事だと思う。

    低軌道での発射については、さらに詳しく、Savelsberg氏に教えて頂いているところなので、物理馬鹿の私の頭で何とか理解できたところで、追記することにする。

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